約束
 なぜか分からない。私は目の前にいる彼の名前を、何かに駆り立てられるようにして呼んでいた。

「一馬さん」

「一馬?」

 私より大きな声が響き、一馬さんの視線が前を追う。

 私はふと我に返り、聞きなれた声と、目の前に立っていた人の姿を確認して、驚きを露わにする。

「知り合いなの?」

 姉と彼は同じ大学だ。でも、学年は違うし、交流があるとは思えなかった。

「同じ授業を受けていて友達になったの。彼は木原君の従兄弟なんだってね」

 姉は私と違い男の子の友達も多い。彼もそんな一人なんだろう。

「由佳、今から帰るならかいものにつきあってよ。お母さんから頼まれてしまって」

「私は一馬さんと」

「何? 私の頼みが聞けないの?」
< 207 / 546 >

この作品をシェア

pagetop