約束
「そういえば、木原君の両親もあそこの出身だったわよね」

 母は父の出身地の名を告げた。

「両親か」

 そう噛み締めるように言葉を発したとき、彼の表情が今まで見たことないくらいかげるのが分かった。彼は笑顔を絶やさない人だった。だから、その表情が妙に心に引っ掛かる。

 彼は首を横に振ると、息を吐く。そして、いつもの笑顔を浮かべていた。

「そうですね。昔住んでいました」

 その笑顔がどこかいつものものとは違っていたことは分かっていたが、気付かない振りをして、彼に問いかける。

「そうなの?」

「小学校入学して少ししてからこっちに来たからね」

 意外だった。こんなところに共通点があるとは思わなかった。木原君と私の父が同郷なら、大学で親しくなったといっても違和感はなかった。

世の中はどこで繋がっているか分からない。
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