約束
第十一章 大切な思い出
 晴実は私の返答を聞いて、呆れたような声を出す。

「まだ言ってないの?」

「なかなか言い出せないよ」

 晴実から映画のチケットをもらって一週間が経過していた。ふと、彼女に映画に誘ったのか聞かれ、「まだ」と返答をしたところだ。

「早くしないと上映が終わっちゃうよ」

「まあ、ロングランをするみたいだからいいんじゃないの?」

 百合は小説を手に、冷めた口ぶりで伝える。

「この子はそう思って絶対に伸ばし続けるからね。軽い気持ちで言えばいいのに」

 それは彼女だから言えるんだろう。彼女は野木君を誘ってどこかに遊びに行くこともたまにあると言っていた。

 だが、彼は私が思ったようにかなり気まぐれなところがあるらしく、誘っても付き合ってくれるのは半分ほどだそうだ。そういう晴実からすると、私のしていることはまどろっこしいことかもしれない。

「晴実が野木君を誘えば?」

「だめだよ。あの人は。行かないで終わりだし」

 百合に木原君と行けばというと、百合からも晴実からも責められるし、一馬さんと一緒に行けばなんて論外だろう。それ以前に百合が恋愛映画を嫌っている。

「捨ててもいいんだけどさ、それって昔の文学作品が原案になっているらしいから、木原君も好きだと思ったんだけど」
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