約束
 私ははじめて聞く言葉にその映画のチケットを見た。だが、聞いたことのない題名だった。

「上映は七月まではやっているみたいだけど、早目がいいと思うよ」

 百合はそういうと、読んでいた本にしおりを挟み、パタンと閉じていた。


 私は学校帰りに、木原君の横顔を見ながら、五度目のトライをした。

「木原君って映画好き?」

 やっと自然に言葉が出てきた。それを聞くために今まで四回詰まっていたのだ。

「好きでも嫌いでもないかな」

「どういうのを見たりするの?」

 彼は難しい顔をする。

「一馬に連れていかれた時に適当に見るくらい」

「恋愛とかは」

「恋愛って苦手なんだよね」

 私の周りには恋愛ものが苦手な人がやけに多い。

 彼も興味がなかったのか、そこでぽつりと会話が途絶え、木原君にい出せないままだった。



 私達が家の前に行くと、トラックが家の前にとまっていた。私は木原君に声をかけると、家の前に行く。

 そして、不在通知らしき紙を握っている運送会社の制服を着た男性に声をかける。宛先には木原君の名前が書かれており、差出人は彼の両親だった。

 サインをすると、鍵をあけたばかりの荷物を家の中に入れてもらう。すぐにトラックは走り去っていく。

「そういえばお菓子を贈るって言っていたからそれかも」

 木原君は荷物を玄関に置き、段ボールを一度リビングに運ぶ。お菓子であれば自分の部屋に持っていくのは二度手間になると考えたのかもしれない。
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