約束
 おばあちゃんの命日を言えば良かったんだと思う。でも、その時の私はそこまで頭が回らない。

 違っていたら、それでいいと思った。でも、違っていなかったらという期待が強くなっていく。

 彼は目を見開き、私を見ていた。

 彼を見たときに湧き上がった特別な感情があった。その感情が理解できず、気になってたまらなかった。それからいつしか目で追うようになり、毎日彼のことを考えるようになっていた。

 まるで何かに恋焦がれるように。毎日木原君のことばかりを考えるようになっていた。一目ぼれをしたのだと思っていた。今から思えば、一馬さんに出会ったときの感覚に似ているような気がした。

 あのときのような夕焼けが窓辺から差込み、彼の髪の毛をゆっくりと撫でていく。私の中でそういう先入観を築いたからか、彼の姿がその記憶の少年と重なっていく。

「覚えているよ。君と遊んだんだよね。俺の勘違いじゃなかったら」

 幼い頃の記憶が、まるで映画のワンシーンを思い出すように蘇る。

「君は覚えていないと思っていたよ」

 そう彼は付け加えるように言った。

 覚えているよ。ずっと覚えていた。でも、まさかそれが木原君だとは思わなかった。

「俺は一目見て分かったよ。君だって」

 息が詰まりそうになる。それほど心臓が激しく動いていた。まさか遠くから彼を見ていた私と彼が同じ思い出を共有しているとは思わなかった。

 なんともいえない気持ちが心の中に広がっていくのが分かった。
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