約束
 嬉しい気持ちもある。でも、まずは彼に謝りたかった。無神経なことを言ってしまったからだ。

「あの、ごめんなさい。お母さんができるとか適当なことを言って」

「でも、君は本心で願ってくれたのだろう。それに願いことは叶ったよ。あの後、お母さんができたから。若かっただろう? 俺の母親。三十二だから高校生の息子がいるようには見えないよね」

「若く見えるだけだと思っていた」

 木原君は優しく微笑む。

「ずっとありがとうって言いたかった。でも君は覚えていないと思っていたから、わざわざ言うのも悪いかなって思っていたんだ」

「そんなことないよ。私こそ、気付かなくてごめんね」

 私の悲しい記憶が一気にそうでないものに変わる。私が少しでも彼に元気を与えているなんて考えもしなかったのだ。

 私の脳裏にこの前、夕焼けで見た一馬さんが蘇る。木原君と一馬さんは良く似ている。

「一馬さんも?」

「そうだよ。あのときの一人。一馬もすぐに気付いたみたいだったよ。全然変わってないって言っていた」

 それは微妙に傷つくが、この場は聞き流すことにした。

「私は全然気づかなかった」

「小さい頃の思い出なんてそんなものだから。それに俺は一馬が言うにはかなり変わったらしいから。それは言われるよな。昔は女の子みたいに可愛かったのにってさ」

 私は彼の言葉に笑う。でも、一馬さんもそうかもしれない。

「あの女の子は同級生の子かなにか?」

 あの女の子もかなり綺麗な子だった。あのまま育ったらかなりの美人になっているだろう。
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