約束
 それが今の本心かは分からない。だが、あの時の彼は悲しそうだった。きっと彼はそうやって心の整理を付けたんだろう。

「二人は話し合いもろくにしないで、逃げたんだ。俺の家は父さんがすぐに離婚を受け入れて、それでよかったんだよ。でも、逃げたのが父親と母親じゃいろいろ違うだろう。共働きならいいけど、一馬の家はそうじゃなかった」

 食べるために働かないといけないし、専業主婦なら仕事探しからしないといけない。それに仕事を探すといってもすぐに見つかるとも限らない。

「だから母さんは責任感じていたみたい。父さんと結婚したら、俺と一馬の面倒見れるからって言っていた。あの人にはあの人の幸せがあったはずなのに。その後すぐに父親の仕事の都合で引っ越すことになってしまって。結局一馬の面倒をほとんど見られなかったって悔やんでいたよ」

 そう困ったような笑顔を浮かべていた木原君の表情が痛々しいくらいあった。

 だが、彼女も同じように姉の行いに罪悪感を覚えていたのだろう。

「一馬さんのお母さんは木原君の今のお母さんのことを嫌っていたりとかしなかったの?」

 自分の主人を連れ去った女の妹だ。人によってはとても嫌いそうな気がしないでもない。

「そんなことないよ。そこまでしなくていいのにって言っていた」

 彼らの作った家族は普通の家族とは違う。でも、とても温かい家族だったのかもしれない。
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