約束
「一馬は本当にすごいよ。あいつが泣いたり、怒ったりするところって一度も見たことないから」

 木原君は一馬さんに対してきつい言葉を言いながら、心の奥底では彼を信頼しているのだろうというのが分かる。そのことを一馬さん自身も分かっている。簡単に壊れない深い絆が二人の間には見える。

 それが二人を見たときに感じた仲のよさかもしれない。
 私はやっぱりこの人のことが大好きだと思った。

 私達はそれを木原君の部屋に運んだ。なぜ、彼の両親がこれを彼のもとへ送ってきたんだろう。こんな悲しい記憶を含んだアルバムを。

 一馬さんが言っていた百合の笑顔が見たいといっていた言葉が分かる気がする。今は少しでも多くの木原君の笑顔を見たかった。

「そういえば、数学のテストどうだった?」

「あれね、九十点だったよ」

 数学の単元ごとのまとめのテストがつい先日あった。それが今日帰ってきたのだが、苦手の数学でこともあろうにそんな点数を取っていたのだ。すっかりそんなことも忘れていた。

「どこを間違ったの? 君も満点取れると思ったんだけど」

 彼も同じテストを同じ日にしていたらしい。

 私はその場で鞄をあけ、それを取り出そうとした。だが、プリントから何かが零れ落ちる。それを見た瞬間、私はその場に固まっていた。

「何か落ちたよ」

 鞄を抱え、プリントを手に身動きを取れない私とは異なり、彼は手を伸ばし、それをひろいあげていた。晴実から渡された映画のチケットだ。
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