約束
「これって野村さんからもらったもの?」

 うなずきかけて、木原君を見る。木原君にはまだ一言も言ってなかったはずだ。

「北田が言っていたんだ。映画のチケットを野村さんからもらっていたけど、行く人がいないみたいだから一緒に行けばとか言っていたから」

 百合はそれとなく木原君から誘うように仕向けてくれたんだろう。でも、彼女も木原君が好きなのだ。

「百合は変わっているよね」

 悪口というつもりではなく、彼女のことが理解できずにそうつぶやいた。

「北田も変にいじっぱりなところあるからな」

 木原君はそう言うと笑い出した。

「どうして?」

「素直じゃないというか。一馬のこともそうだけどさ」

 一馬さんの名前が出てきて首を傾げる。もしかしてこの人は百合が一馬さんのことを好きだと思っているのだろうか。だって百合に告白までされているのに。

「それって百合が一馬さんのことが好きってこと?」

「どうみてもそうだよね」

 違うとは言えずに、彼女がいたたまれなくなってきた。だが、彼女の気持ちを代弁することはできなかった。

 木原君は鈍すぎる。

「一緒に行こうか。映画」

「いいの?」

「いいよ。たまには気晴らしにね。今週末でいい?」

 思わぬデートの誘いに何度もうなずいていた。

 正直嬉しい。でも、木原君を好きだったはずの彼女のことがよく分からなくなってしまっていた。

 翌日、晴実と百合にそのことを伝えた。彼女達はそれぞれそのことを喜んでくれた。

 笑顔の百合を見ていると、木原君の言葉を思い出し、彼女に頼ってしまったことを申し訳なく思っていた。
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