約束
「ごめん。少しだけいい?」

 彼は意味が分からなかったようだが、とりあえずうなずいていた。

 私は白の半そでのシャツにピンクのフリルのスカートをはいた女の子に声をかける。

 彼女は手で目元をぬぐいながら顔をあげていた。

「どうかしたの?」

 彼女は首を横に振る。でも、何もないとは思えなかった。

「くうちゃんがどこかにいっちゃったの」

「くうちゃん? お友達?」

 私は腰を落とすと、目線を合わせる。

 少女はうなずいた。

 彼女の後方を見ても、その手がかりもない。そのくうちゃんの名前が分かればいいんだけど。

「名前は分かる?」

「くうちゃん」

 それしか言わない彼女から本名を聞きだすのは難しそうだった。

 その子もどこかで迷子になって、目の前の子を探しているかもしれない。

 そう考えると、ほうってはおけなかった。

「男の子? 女の子?」

「男の子」

 女の子よりは危険な目にあう可能性も低いが、彼女の友達だと小学校にも行ってない可能性が高い。

「さっきまでどこにいたの?」

「公園」

 彼女の靴を見ると、細かい砂が付着していた。砂場で遊んでいたんだろうか。

 一番近くにある公園はここから歩いて五分ほどの場所にある。走れば数分で確認はできるだろう。だが、そこに彼が残っている可能性は極めて低いが。

 私と少女の体に影がかかる。木原君が心配そうに私達を見比べていた。
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