約束
 家に帰ると、私は洋服を着たまま、ベッドに横になる。彼から買ってもらったくまのぬいぐるみをそっと抱き寄せた。嬉しいのに、どこか寂しい。自業自得なだけになおさらだ。何でこんなことになってしまったんだろう。

 夕食後、シャワーを浴びると、傷口が痛む。その痛みに自分のばかさ加減を伝えられた気がして、ため息だけが出てくる。

 引きずり、部屋に戻る。そして、またベッドに横になろうとしたときだった。部屋の扉がノックされる。

 姉がからかいに来たのかと想い、「開けていい」というと扉が開く。だが、部屋の中に入ってきた影の正体を見て、思わずその場に起き上がる。

「ごめん」

「何でもないの。どうかした?」

 私は髪の毛をてぐしで整え、せめてもの悪あがきをする。

 お風呂上りに髪の毛を濡らしたままベッドに横になっている姿を見られるなんて、今日の失態に追い打ちをかけるようなものだ。

「靴擦れ、消毒したほうがいいかなと思ってさ」

 彼が持っていたのは救急箱だ。

「大丈夫だよ」

 いつもそういえば木原君は引き下がるのに、今日だけはそうでもない。
 心配されているのかもと思うと、少し嬉しい。

 自分で消毒はしたけど、木原君は終わるまで傍にいてくれた。

 少しだけだけど、彼は以前に比べる変わったような気がする。どこがどう変わったのかは分からないけど。今までよりほんの少しその距離が狭くなったような気がしていた。


 私は翌日、晴実にデートの話をした。晴実は靴擦れの話を聞いて笑っていた。

「言ってくれればヒールの低いサンダルか、痛くならないものを貸してあげたのに」

「相談したらよかったね」

 でも、悪い事ばかりではない。木原君が心配してくれたということは、昨日の失態の悲しさを帳消しにしてくれるものだった。
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