約束
第十二章 彼女への気持ち
 チャイムが鳴り、ホームルームが終わりを告げる。その日はお昼過ぎに木原君から用事ができたので一緒に帰れなくなったと伝えられたのだ。

「今日、一緒に帰らない?」

 私は前の席の晴実に声をかける。

「今日、百合も用事があるらしくて、野木君と約束しちゃったんだけど、一緒でいいかな」

「私、一人で帰るよ。邪魔したら悪い」

「由佳が邪魔なんてことあるわけないじゃない」

 晴実は笑顔で応える。

 邪魔という言い方が失敗だったかもしれない。好きな人と二人きりで帰りたいのではないかと思い、遠慮をしたのだが、晴実は気にした様子はなかった。

 私は彼女達と一緒に帰ることになり、野木君と待ち合わせている昇降口まで行く。彼は昇降口で一人でたたずんでいた。先に靴を履いてしまった晴実が声をかけ、事情を説明していたようだった。

 私は靴擦れで痛む足をかばいながら、少し遅れて彼らのところに行く。彼は私がいることに驚いていたようだったがなにかを言うことはなかった。

 学校を出ると、野木君が口を開く。

「雅哉の様子はどう?」

「変わりないと思いますよ」

 彼と話をすることは、あの告白されて以降たまにある。

「あいつが毎朝、しっかり起きているのが意外だよな」

 彼が含みのある笑みをもらしながら、そう告げたように木原君は私の家に来て、あの病気で寝込んだ日を省けば一度も誰かに起こされたことがない。

 一人暮らしをして問題がなかったのではないかと思うほどだった。だが、野木君が言うにはそれは考えられないことらしい。逆に私がたまに起こされる話をすると、彼は笑っていた。
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