約束
「言う相手は厳選しているよ。言うのは百合と由佳ちゃんと雅哉に対してだけだから」

 一つ思いがけない名前が入っていて、苦笑いを浮かべる。

「雅哉は何歳になっても俺にとっては弟のようなものだから、かまいたくなるんだよね」

 本当は兄弟と呼んでもおかしくない二人の関係を思い出し、胸の奥がちくりと痛んだ。

 その時、彼の顔つきが真剣になる。だが、その表情がすぐに消える。

「俺は今は寮に入っているけど、今年の秋か来年には雅哉と暮らすために、一人暮らしをしようかなと思っている」

 いつぞやの二人の会話を思いだし、胸が痛む。

「だからあいつが一人暮らしの話をしても君や君の家が嫌になったわけじゃないんだって前もって言っておきたくてさ。君って勘違いして暴走しそうだから」

 顔から火が出る思いというのはまさしく今の状況を言うのだろう。
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