約束
 そのことに気づいていたのは木原君の両親はもちろん、一馬さんと野木君だったのだろう。

 ずっと見ていたはずなのに、肝心なことには気付けないままだった。

「今週で補習が終わるから、来週戻ろうと思う」

 彼は優等生としての決断を下そうとしているのだろう。

 家族を置いて別の人を選んだはずなのに、なぜ今更彼を苦しめようとするのだろう。

 今、何をいえば、何をしたら、彼の苦しみを少しでも取り払えるのか。

 その答えが私にはわからない。私の目から涙が毀れてくる。泣かないようにと目をこすっても、流れてくる涙の量がどっと増えたのだ。

「ごめんね。私、木原君にかける言葉が見付からなかった。木原君は私のことを元気付けてくれたのに」
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