約束
 私が奥に座り、木原君は通路側に座る。そのとき、彼の表情を見た。心なしかいつもより強張っているような気がした。

 彼のことが心配だった。だが、そう思っているのは私だけではない。事情を知っている百合も、そして一馬さんもだった。一馬さんも帰省を兼ねて明日来ることになっていた。そこまで互いを心配し合えるのは実の兄弟でもなかなかないと思う。

「ずっと母親に会うのも、あの家に帰るのも怖かったんだ。情けないけどさ」

 彼はそういうと、苦笑いを浮かべていた。

 私は彼の手をそっと握る。一瞬、彼は体を震わせたが、振り払うことはしなかった。性格からそうしないのは大よそ見当がついていたが、それでもほっとする。彼の優しさやぬくもりが伝わってくるきがした。
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