約束
 彼から初めて聞く恋愛に対する彼の価値観だ。彼のそんな話を聞いたら、何人の人が自分はそうでないと名乗り出るだろう。私だってそうだった。そんなことは絶対にしない。彼のことが好きでたまらないから。

「私ならそんなことしない」

 私は口にして気づく。言うつもりはなかった。

「ごめん。木原君も選ぶ権利あるからね。今の話は忘れて、ごめんね」

 私は思いつく限りの謝罪の言葉を並べていた。彼からいつものように気にしないでという言葉が聞こえてくるのを期待していた。だが、聞こえてきたのはそんな言葉ではなかった。

「今のって冗談?」

 彼は驚いたように私を見ている。

 私は苦笑いを浮かべていた。告白しても冗談扱いされるほど、彼にとって私は論外の存在なのだろうか。

「本気、だけど。ちょっと常識ないよね。こんなときにこんなこと言ったら」

 そのとき、木原君が私の手を握る。

「ありがとう」

 私にはその言葉の意味が分からずにただ戸惑っていた。
< 306 / 546 >

この作品をシェア

pagetop