約束
「今日は友達を待たせているので、ここで失礼させていただこうと思います」

 私は深々と頭を下げた。そして、向こうを出る前に買ったお茶菓子を差し出す。

「北田ともう一人、高校の友達が一緒なんだよ」

 木原君はつけ加えるようにして言う。
 その言葉に木原君のお母さんは笑顔になる。

「百合ちゃんもおばあさんがここに住んでいたわね。おばあさんによろしくね」

 彼女の笑顔に癒されながら、彼の家を後にする。

 木原君は送っていくと言ってくれたが、そこまでしてもらうのは気が引け、一人で大丈夫だと彼を説得し、来た道を戻ることにした。

 目印もない、はじめての道だったが、同じ家が並んでいるといわけでもないので、目印を確認しながら問題なく駅まで戻ることができた。

 最初二人と別れた喫茶店の中では百合と晴実がなにやら話しこんでいるのが見えた。時折笑顔を浮かべている。

 その彼女達の前にあるコップはもう空になっている。私は窓ガラスを右手の人差し指の第二関節で小突く。

 二人は顔を見合わせると、席を立つ。そして、レジで会計をすませると、すぐにお店を出てきた。
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