約束
「もういいの? ゆっくりしてきてもよかったのに」
「家族でしかできない話もあると思うんだ。久々の再会だもん」

 百合はそうね、と言うと俯いた。

 彼女に直接は聞いたことないが、彼女も彼の家の複雑な事情は知っているような気がしたのだ。

 私たちは百合の祖母の家に行くことになった。彼女の家を取り巻く木製の柵からは朝顔の葉が覗いている。門の中に入ると、庭には様々な植物が咲き乱れていた。

 その石の道の上を歩き、玄関まで行く。百合は玄関を開けると顔を覗かせた。

 この辺りでは鍵を閉めたりはしないんだろうか。

「おばあちゃん、友達を連れてきたよ」

 すぐに足音が響き、小柄な女性が玄関まで出てくる。彼女は私と晴実を交互に見ると、深々と頭を下げる。

 肩の少し下まで伸びている白髪混じりの髪の毛を後方で一つに縛り、紺色のスカートに白の襟のあるシャツを身に纏う。


 化粧っ気などはほとんどなかったが、その透った鼻筋や、ふっくらとした赤い唇は百合を連想させた。彼女が祖母と同じくらいの年になれば、似てそうな気がする。
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