約束
 彼女は私たちを見ると優しく微笑んでくれた。

「部屋は手前の客間でいいんだよね」

「ええ。飲み物を準備してきますね」

 だが、二人の話し方はちょっと違う。
 はきはきと反す百合に対し、祖母は穏やかな話し方をしていたのだ。

 彼女は背を向け、奥に戻っていく。

 百合は玄関から右手に入った襖を開ける。そこには何も荷物のない広々とした部屋があった。私の部屋の広さがゆうにありそうだった。

「ここを使っていいよ。眠るのはここを使ってもいいし、別の場所でもいいよ」

 百合はそう言うと、持っていた荷物を畳みの上に置く。そして、奥にある襖を指差す。

「お客様用の布団はここに一応入っているから」
「ここっておばあちゃんが一人で住んでいるの?」

 私達は部屋の隅に荷物を置き、百合の出してくれた座布団の上に座る。

「おばあちゃん、若いね」

 と晴実が言った。

「そんなことないよ。今年で七十だよ。そんなものじゃないかな」
「見えない」

 晴実は驚いたのか目を丸める。

「そんなものだって」

 百合は苦笑いを浮かべていた。
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