約束
 私はよく考えたら百合の家のことは何も知らないのだ。両親がどんな人なのかとか、兄弟がいるのかとかそんな話は聞いたことがない。あまり彼女は自分のことを話そうとしない。唯一聞いたのは彼女がお父さんに似ているくらいだ。

 私はお土産を百合に渡す。晴実も「私も」と言い、バッグからお土産を取り出す。

「おばあちゃんに渡してくるね」

 百合はそう言い残すと部屋を出て行く。広い部屋の中に、私と晴実の二人だけになる。晴実は体の後ろに手をもっていき、ゆっくりと体を仰け反らせる。

「由佳のお父さんの実家もここなんだよね?」
「もう、家は残ってないけどね。跡地にはスーパーができたんだって」

 彼女はそっかというと呟いていた。

「でも、世間は狭いよね。いいところだけど、人口はそんなに多くなさそうだし、それで身近に四人もって」

 そして幼い頃に会っていたというのもすごいなと感じていた。

「由佳は志望校決めた?」

「まだだけど、多分、百合と同じところを受けると思う」

 木原君に言われ、三者面談でもそこを書いていた。そう決めると、不思議とそこに志望校が固まっていく。学力の面ではまったく届いていないけど。
< 312 / 546 >

この作品をシェア

pagetop