約束
「私の母親はずっと昔に交通事故で亡くなったの。だからずっと家事は私がやってきたの」

 百合が年齢のわりにしっかりしているのと、一馬さんが彼女の力になりたいと考えていたのもそうした事情があったのかもしれない。

 彼女は何度か部屋と台所を往復すると、自由にくつろいでと言い残し、台所に戻っていく。

 私と晴実はその料理をまじまじと見ていた。

「百合って並大抵の男じゃ釣り合わないよね」

「そうだね」

 彼女も木原君と同じように、誰も見ていないところで努力をして、それをたいしたことないと言いきれる程に自分のものにしている。

 しばらく経ち、百合が戻ってくる。彼女は私達の食べ終わった食器を運んでいく。そして、しばらくして戻ってきた。

 その時にはすっかりと日が落ちていた。

「少し外に出ない?」

「私はパス」

「私は行こうかな」

 晴実は長旅に疲れたのか、横になっている。まだ元気の有り余っているわたしは百合の誘いに乗り、外に出る事にした。

 彼女はブルーのAラインのワンピースに着替え、白のサンダルを履いていた。

 夜の光にブルーの洋服と白のサンダルがよく映える。

 私は思わず天を仰いでいた。
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