約束
「百合」

 私が彼女の名前を呼ぶと、彼女は体を震わせ振り返る。私はその時、彼女の目元が光るのに気付いてしまった。

「一馬さんと何かあったの?」

 百合のふっくらとした唇から言葉が零れる。

「好きだって言ったこと忘れてくれって」

 その言葉をすぐに理解できなかった。理解して、思わず百合を凝視していた。

「何かあったの?」

 幼稚園の頃から今まで百合に片思いをしてきた彼が今更百合に別れを告げるなんて考えにくかった。そうせざるおえない何かが二人の間にあったんだろう。

「私のお父さんと、彼のお母さんが再婚するかもしれないの」

「兄妹になるってこと?」

 百合は頷いた。

 だが、不自然さも残る。百合を好きだった一馬さんがショックを受けるなら分かる。でも、百合がこれほど強いショックを受けている理由が解せない。
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