約束
 私はリビングに通され、ソファに腰を下ろした。家の外観と違わずとても広い。右手は一面のガラス戸になっており、色鮮やかに咲き乱れる草木を確認できる。

 すぐに香ばしい香りと共に、木原君のお母さんがやってきた。彼女は紅茶の入った白のティーカップを私に差し出す。

「雅哉は一馬君と会うらしくて出かけてしまったの」

 一馬という名前を聞き、胸が痛んだ。その痛みに気付かない振りをして、彼女の入れてくれた紅茶を飲むことにした。

「あなたに無理を承知でお願いがあるの」

 彼女はしばらく間を置く。

「私の姉に会ってくれないかしら?」

 私は彼女の言葉に戸惑っていた。

 彼女の姉と言うことはすなわち、木原君の本当のお母さん。彼を捨てた母親。

 確認の意味を込めて、彼女に尋ねる。
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