約束
 そこはは背後で木が佇み、草原が広がっていた。

 ここで彼に会い、全てが始まったのだ。だが、あのとき彼女が木原君の家を出て行かなければ私はここで彼に会うことはなかった。

 私はかがむと、地面から目を出している草に触れる。

「田崎さん」

 私はその声に立ち上がって振り返る。思わず声を上げそうになる。

「一馬さんに会うって」

「会って帰ってきたところ。近くを通りかかって、懐かしくなってここに来たんだ。でも、誰かに聞いた?」

 私は彼の言葉にうなずく。そして、木原君のお母さんと一緒に、本当の母親にあいにいったことを伝えた。私は彼の頬に手を差し出した。彼の頬は温かくて、それが何だか切なかった。
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