約束
 一馬さんのお母さんにだって幸せになってほしいとは思う。でも、百合や一馬さんの幸せはどこにあるんだろう。十年以上、片思いをし続けられる相手なんてそうそういるものじゃない。

「どうかしたの?」

 優しい声が聞こえてきた。私はその声につられるようにして、顔を上げた。

 そこに立っていたのは黒髪で長身の女性。髪の毛は短くショートカットの人にしているのに、どこか上品で落ち着いた印象を与えていた。私の母親と同世代ではないかというような気がした。

「何でもないです」

 しらない人にまで迷惑をかけてしまったことに気付き、首を横に振る。

 彼女は白いハンカチを取り出すと、私に差し出した。

「大丈夫です」

 そう言おうとしたのに、言葉がうまく出てこない。私は自分のハンカチを取り出すとあふれる涙を拭いた。
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