約束
 そのとき、彼女の手が私の手に触れた。女性にしては大きな手は私の手をすっぽりと包み込んでくれた。

「そうやって友達のことを気にできる子が嫌な子なわけはないわ。それに人の幸せなんて、本人にしか分からないのだから、あなたは何も心配しなくていいし、自分を責めなくていいのよ」

 彼女の言葉は不思議なぬくもりを与えてくれ、さっきの空虚感を埋めてしまった。同じ感覚をずっと前に味わったことがあった。

「それに知らないほうがショックってこともあるでしょう。自分の子供が何を考えていたか知らなかったなんて」

 彼女はそう苦々しい表情を滲ませながら伝えた。

 私たちはそれぞれの飲み物を飲むと、お店を出ることにした。彼女は自分が誘ったのだからと私の分まで払ってくれた。

私が自分で払うと言っても、彼女はかたくなに受け入れようとしない。

最後にはさっきのことを誰にも言わないで欲しかったら気にしないこととまで言われ、黙るしかなくなっていた。

 彼女の姿を見送り、私は学校へ行くことにした。結局、私は一人で空回りをしていただけなのかもしれない。

 学校で百合と話をしたが、笑顔で話をしてくる彼女がやけに切なかった。
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