約束
「頼みがあるの」

 いつもの彼女らしからぬ歯切れの悪い声だった。

「どうかした?」

「一馬さんのお母さんが私の家にいるのね。だから、彼にその事を伝えてほしいの」

「百合の家にいるの?」

 私はドアのところに立っている木原君に手招きした。

「いるよ。だから、連れて帰って欲しいの。ホテルをとっているみたいだから、そこにでも」

 私は百合に少し待ってというと木原君に事情を簡単に説明する。

「分かった。一馬に伝えておく」

 彼はそこで言葉を切る。

「俺が迎えに行こうか?」

 百合に気を使ったのだろう。
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