約束
 私は思わず扉を閉めていた。バタンという音が室内に響く。百合を彼女の視界から隠すことがせめてもの償いだ。

「今日は本当にありがとう。一馬と話をする前に百合ちゃんの気持ちを確認しようと思ったんだけど、逃げ出しちゃって。どうせ部屋に逃げられなくて、廊下辺りにいるんだろうけど」

 彼女は百合に一馬さんのことをどう思っているかを、それもおそらく父親の前で聞いたんだろう。

 私の想像の一馬さんのお母さんとは全く違っていた。もっと繊細で、おとなしい人を想像していたのに、美人だけど少し真逆の印象だった。

「百合ちゃんが話をしてくれないなら、一馬に聞くしかないわよね」

 彼女はバッグから携帯を取り出した。一馬さんを呼ばれるのも、それはそれでまずい。
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