約束
「そっか。おばあさんが亡くなっていたんだよね」

 彼はそう小声でつぶやいた。

「もう昔のことなのに、おばあちゃんが何を考えていたのか今でも分からなくて、悲しくなってしまうんだ。せめて、体調が悪いってことを教えてくれたら、もっといっぱい会いにいけて、お話ができたのにって」


 その気持ちで蘇るのが幼いときに自分の負の感情をぶつけてしまった記憶だった。彼女があのとき亡くなってしまったのはわたしのせいではないかと心に引っかかっていたのだ。

「そっか」

 木原君の暗い声を聞いて、我に返る。自分の話ばかりをしていたのかに気づいたからだ。

「ごめんなさい。変な話をして」

「謝らなくていいよ。こっちこそ辛いことを思い出させてごめん」

 彼の指先が私の目元に触れる。それで私は自分が泣いていたのに気づいた。

「ごめん」

 彼の手が私から離れる。嫌ではなかったが、触っていてほしいなんていえずに、首を横に振る。
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