約束
「木原君が気を遣ってということはあるかもね。あの子に頼むと、断れなさそうだから渡してくれそう」

 二人はあれこれと勝手な話を繰り広げている。それ以上二人の話を聞くのが嫌になり、教室に戻ることにした。荷物を片付けて図書館にでも行こうと思ったからだ。

少なくともそこなら見通しがよく、私がいることも分かるので、いまのような陰口を叩かれることもなくなる。

 席に座り、ため息を吐く。頃合を見計らい、机の上に置いていたテキストをまとめ、鞄に片付けようとしたとき、教室の扉が開いた。木原君が戻ってきたのだ。

「遅くなってごめん。帰ろうか」

 彼の言葉に頷き、教室内の施錠を確認し、廊下に出る。先ほどまで話をしていた二人はもう帰ったのか、木原君の教室の電気はすっかり落ちていた。

 こうして待っているのもそういうことなんだろうか。
 ただ私は一緒に帰りたいだけなのに。

 彼がそんなことを思っているわけがないと分かっていても、私には気がかりなことがあった。

「木原君」

 私が呼びとめると彼は振り返る。
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