約束
 彼は上靴を履くと、私達に声をかけ、階段のほうへ行く。

「外に行こうか。すぐに話は終わるから」

 私は入ったばかりの昇降口から引っ張られるようにして外に出ることになった。

 百合が話し場所として選んだのは、靴箱から少し離れた家庭科室の前だ。早朝だからか、人の姿はない。

 百合は肩を腰にあて、ため息を吐くと、私の顔を覗き込むように見る。

「何かあった? 泣きそうな顔をしているけど」

 気にはしないようにしているのに、やっぱり顔に出てきてしまっていたんだ。

「昨日、あの二人が私と木原君のことをあれこれ言っているのを偶然聞いてしまって。私に頼めばチョコを木原君に受け取ってもらえるとかなんとか」

 告げ口をしている心境になり、次第に声が小さくなっていく。
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