約束
 部屋の前に来たとき、やっと言葉を振り絞る。

 今言わなければ、彼にはずっと聞けないような気がしたのだ。 

「大学、志望校を変えたの?」

 彼の顔色が一瞬で変わる。

「ずっと言わないといけないと思っていたんだけど。悪い」

 私は彼の部屋でその理由を聞いた。母親のお見舞いに来たときに、一馬さんの父親に出会ったらしい。

そのとき、彼のつてで、大学の准教授をしているという男性に話を聞く機会があった。そして、何度か話を聞き、その大学に行きたいと思うようになっていたと。

 彼の両親は彼の望みなら、と反対はしなかったらしい。

「そっか。がんばってね」

 私は喉の奥から声を絞り出す。私はそれだけを伝えると、自分の部屋に戻った。その間、彼の顔を見なかった。だって、喜んでいないのに気付かれてしまうから。
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