約束
「最近、雅哉君、元気ないよね」

「そうかな」

 姉の言葉を交わし、食器棚から白のマグカップを取り出した。まだ強い薫りを放つコーヒーを入れる。

「最近話をしていないけど、喧嘩でもしたの?」

「喧嘩なんかしてないよ。受験生なんだし忙しいんだよ」

 それだけを言い残すと、部屋に戻る。

 ドアを閉め、深呼吸した。喧嘩ができたらどんなにいいだろう。互いに言い合えているということだからだ。むしろその逆だ。

今の私と木原君は、今日の天気や授業中にあったことといった差し障りのないことを話すだけの関係だ。お互いに言葉を選びすぎて、意志疎通ができなくなっていた。
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