約束
「あなただってそのことを本人に聞けないからここに来たんじゃないの。人のこと言えるわけ?」

「私が聞けないって」

 彼女はその言葉を鼻で笑う。

「私は彼の家も、携帯の番号も知っているのに、あまり話をしたことのない彼女に聞きに来たって何の冗談? 私のクラスは隣。帰ろうとしたら陰湿な人たちの声が聞こえたから、声をかけただけよ」

 その言葉に二人の顔が真っ赤になるのが見て取れた。

「何なら私から木原君に六組の根元さんと平田さんが彼の友達の田崎さんに何か文句をつけていたと教えてあげようか? きっとすぐに来てくれるよ。さっき帰ったばかりだから」

 彼女は携帯を取り出すと、キーを操作していた。

「さっきって」

「ああ、あなた達の話を聞かせてあげればよかったかもね。残念なことにあなた達がここに来るより前に出て行ったけど。でも、私、記憶力がめちゃくちゃ良いんだ。あなた達の言葉を状況を踏まえて、一言一句伝えてあげる」


 二人は明らかに顔を引きつらせる。

「言って欲しくないなら今すぐ帰りなさいよ。二度とこんなくだらないことはしないで」
< 46 / 546 >

この作品をシェア

pagetop