約束
 桜の花が咲くころ、それぞれに合格通知が届く。私たちはみんな希望の大学に合格することができた。そして、別れが直前に迫っていた。

 私は何度か通ったことのあるアパートのチャイムを押す。

 すぐに薄手のジャケットを羽織った木原君が出てきた。

「ちょっと待って。中で待つ?」

 私はうなずくと、靴を脱ぎ、家の中にあがる。

 必要なもの以外は何もない家だったが、いつもいるはずの姿がないのに気づいた。

「一馬さんは?」

「見送りにはこないってさ。今日は出かけるからって朝から出て行ったよ」

 彼なりに私に気遣ってくれたんだろう。他の人も同様に木原君の見送りはしないと言っていた。
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