約束
 最初は戸惑い、動揺しまくっていたが、本音を言えば嬉しい。緊張はするけど、嫌な意味の緊張じゃない。


「本当に迷惑をかけてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。何か失礼があればいつでも言ってください」

「大丈夫ですよ。そんなに気になさらなくても」


 木原君が迷惑をかけるなんてことありえない気がする。

 むしろ私の家族が彼を困らせないかが気になるところだ。


 彼女は私の両親にも深々と頭をさげると、家を出て行った。

二人が出て行った玄関の扉が閉まるのを待ち、リビングに入る。

リビングには姉と晴実の姿があった。

姉はダイニングテーブルで頬杖をつきながら、紅茶を飲み、晴実は庭の前にあるソファにすわり何かを雑誌のようなものを読んでいた。

「雅哉君と、由佳のケーキならここにあるよ」

 名前?
 姉のそんなさりげない言葉に思わず反応していた。
 だが、木原君は抵抗がないのかいつものままの表情で、姉のほうに行く。

 雅哉君。

 心の中で呪文のように何度も繰り返すが、それを口にすることはできなさそうだ。

 私も木原君のあとをついていくようにダイニングテーブルまで行く。
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