約束
 彼の髪の毛がまだぬれていて、肌にぴたっとはりついていた。

 頬はわずかに赤味を帯びていて、いつもの大人びた雰囲気を奪ってしまい、少年のように見えた。髪の毛は大雑把に軽く拭いたのか、毛先が多方面を向いていた。

 やっぱりかっこいいな。いつもなら見られない彼の姿がやけに新鮮で、思わず目をそらしていた。見ていたいのに、見られないという状況がどことなく歯がゆい。

「あがったので、部屋に戻ります」
「ジュース飲む?」

 最初は遠慮をしていたが、姉に押し切られのむことにしたようだった。まさか私の隣に座らせるんじゃないかと身構えていたが、木原君が私の傍に来ることはなかった。

 姉はオレンジジュースを戸棚から取り出したコップに注ぎ、彼に手渡す。

「敬語は使わなくていいし。別にそういうことは言わなくて大丈夫。毎日そういうことを言っていたら疲れちゃうよ。ジュース部屋に持って行っても大丈夫だよ。私の家はそんなに細かくない物」

 姉のそんな言葉に木原君は苦笑いを浮かべていた。

 それから二人は言葉を交わすと、木原君はコップを持ち、部屋に戻っていく。

彼が隣に座ることにならずにほっとしていた。何でそんなに話ができるんだろう。晴実もそうだけど、私からすると信じられないことだった。

「残念だった?」
「そんなことない」
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