約束
 戻ってきた姉にそうからかわれ、顔を背ける。

「まあ、仲良く話をしたいなら、引きつった顔をどうにかしないとね」

 彼女はそういうと、ソファにおいていた着替えを手に取り、部屋を出て行く。お風呂に入るのだろう。

 私は自分の携帯のカメラを起動し、自分の顔を映してみた。

「引きつっていたのかな」

 でも、木原君のいないリビングではそんなことになるわけもなく、いつもと変わりない変哲のない顔をじっと見つめていた。

 姉が先に入って、その次に私が入ることになった。

 お風呂から出てきた姉は私に声をかけるとリビングを出て行く。もう妹をからかうのは飽きたのだろう。

 私は母親に風呂に入るように言われ、着替えを取りに部屋に戻ることにした。だが、階段をあがったとき、廊下に人の姿を見つける。それも一人ではなく二人、だ。

 姉は腰に手をあて、木原君と話をしていた。木原君は少し困ったような表情を浮かべている。木原君とあんな風に話ができていいな。

 私は壁に身を潜ませ二人がいなくなるのを待っていたが、二人の会話の内容が気になり、時折壁の陰から二人の様子を伺う。

「また明日ね」

 そんな明るい声が聞こえると、ドアの開く音が聞こえる。試しに確認すると、木原君も姉もそこにはいなかった。


私は部屋に戻ると着替えを取る。そして、お風呂場に行くと脱衣所の中から鍵をかける。

さっきまで姉が入っていたことがあり、辺りには湿気が立ち込めている。
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