約束
 水色のタイルに、ライトグリーンのタイル。

その上にかぶせてあるのは自由なところで折りたためるタイプの風呂の蓋だ。

脇にはタオルかけと鏡があり、鏡は完全に湯気で視界をたたれていた。

その脇には水滴をかぶったシャワーが壁に沿うようにかけられている。

昨日も当たり前のようにお風呂に入り、見慣れたはずの風呂場なのに昨日とは別物に見えたのだ。

 木原君と同じお風呂に入るんだと思うと、すごく不思議でくすぐったい気がした。だが、湯船にかぶせてある蓋をめくることができなかった。

中にあるのはただのお湯のはずなのに、見てはいけないようなものが入っているような気分になってきたのだ。

私は数分迷った結果、シャワーの蛇口を捻ることにした。なぜか恥ずかしくて、湯船に入るのを断念した。意識しすぎなんだろうな。

 お風呂から出たとき、姉と偶然鉢合わせをした。姉は私を見ると、にやっと笑みを浮かべる。

「あんたもお風呂に入らなかったでしょう」
「覗いてたの?」
 心の中を見透かされたみたいでドキッとした。

「何で妹の風呂をのぞくのよ。なんとなくあんた達って似ているから、お風呂に入らなかったような気がしたんだけど」
「あんた達って誰? お母さん?」
「雅哉君」

 その言葉に顔が赤くなるのが分かった。

「やっぱりそうなんだね」
「お姉ちゃん」

 そう強い口調でいうけど、お姉ちゃんにそれが届いたのかは微妙だったりする。

「そんなに気遣わなくていいと由佳からも言ってあげてよ。でも、その前に、あんたは何かを言いたそうに木原君をちらちらと見るのをやめないとね。人によっては気持ち悪いと思うかもよ。雅哉君は優しいからそんなことはないみたいだけど」
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