約束
「何考えているのよ」

 私はため息を吐くと、その場で両腕を天井に向かって伸ばした。

 だいたい木原君に朝っぱらから変なことを頼まないでよ。彼も困っていたのに―。
 だが、私のそんな苛立ちは次の瞬間吹き飛んでいた。いつもなだらかな曲線を描く私の頭の部分の影が一箇所だけ見慣れない曲線を描いていたのだ。

 見てはいけないものを見るような心境で、枕元に置いていた鏡に手を伸ばす。前髪には寝癖がつき、上部に向かって伸びていた。

 私は悲鳴のようなうめき声のような声を出し、鏡を抱えたまま頭を抑えた。だからといって木原君にこんな姿を見せた過去を消せるわけもない。
 最悪だ。

 だが、それはあくまで今の話。へんな顔をして眠っていた可能性もあるかもしれない。変な寝言を言っていたかもしれない。考えれば考えるほど目の辺りが熱を持つのが分かった。


 正直部屋に閉じこもりたい気持だったが、また眠ってしまったと勘違いされ、木原君を遣されたら困る。もうこんな頭を見せたくなかった。私はとりあえず制服を着る。いつものようにパジャマでうろつくことはしない。

 そして、足音を殺して階段をおりていと、洗面所に直行した。誰もいない洗面所で、前髪を直す作業が始まる。何か髪につければ直るが、校則の厳しい私の学校ではあまりそういうことはできなかった。

 とりあえず、前髪に水をつけて、櫛で整える。だが、寝癖はしつこくまた再び元に戻る。その動作を数十回ほど繰り返したとき、前髪がしんなりとなり、そこでやっと肩の荷がおりた気がして、ため息を吐く。

「おはよう」
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