約束
 いつもより目覚めが幸せだったのは、木原君の夢を見ていたからだったのだ。そう思えば夢の中で木原君と談笑するような自分の姿を見たような気がする。いつもなら嬉しい夢も、今日に限っては余計なものでしかない。


「ショックを受けるのは学校に着いてからのほうがいいと思うよ。あと十分以内で出ないと多分遅刻じゃないかな」

 その言葉に我に返る。部屋で見た時刻からそれくらい時間が差し迫っていてもおかしくはない。


 部屋に戻ると、鞄を手に取る。もうそのときにはいつもなら家を出る五分前になっていた。ゆっくりしている時間はなさそうだった。

 だが、リビングに入ると、そんなあせりも吹き飛んでいた。


 そこには母親と笑顔で言葉を交わす木原君の姿があった。彼は背筋を伸ばし、おはしを口まで運ぶ。お箸でつかんだものは端からこぼれることもなく、彼の口に運ばれる。


彼がごはんを食べるのは二度目だが、本当に綺麗に食べるんだという印象を持ってしまっていた。それはやっぱり変わらないし、それどころか動作の一つずつが絵になっている。

木原君に欠点なんて絶対にないなと思ったとき、明るい声が響く。
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