約束
「由佳も早くごはんを食べたら?」

 私はその言葉で我に返る。だが、昨日のことを思い出し、テーブルに視線を滑らせると、思わず苦笑いを浮かべる。彼の隣の席にまだ使われていない食器がひっくり返されて、置いてあったのだ。

 彼の隣でごはんを食べるなんて、心臓に悪い事をしたら、一日身が持ちそうにない。


「どれくらい食べるの?」


 母親はしゃもじを持ち、ごはんを入れる準備を整えている。

「今日はいらない」


 鞄を手に、そのまま出て行こうとしたが、リビングの扉付近には腕組みをした姉の姿があったのだ。姉は私と目が合うと含みのある笑みを浮かべる。彼女は何も言わずにソファに腰を落とす。
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