エンターテイナーズ
6階は資料室らしく、パスされた。
見たかったんだけど、今は棚整理の真っ最中で入れないらしい。
そして、7階。
「ここは、防音スタジオです」
「防音スタジオ…」
「はい。
主に音楽部門のタレントが使用しています」
それはつまり、
私がここに入所したら、
よく来ることになるだろう場所ってこと…。
スタジオと同じサイズの部屋が並んでいた。
家で見ていた重々しげな防音のドアが、そこにもあった。
一部屋ずつたどっていくと、
仮眠室のドアのように、
“使用中”の札がかかっていた。
「―…あら、馨だわ」
江上さんが呟いた。
その名前は、私の記憶に残る名前だった。
岬さんは、“馨”のための曲を選びに家へやって来た。
そして、岬さんはあの一曲を持ち帰っていった…
お父さんの一番のお気に入り。
私が、一番歌うのに苦労した、あの歌。
もしかしたら…
もしかしたら今…
“馨”が歌っているのは、
あの曲なんじゃないだろうか。
―――聴きたい
私はそっと、
重たい扉を開けた。