エンターテイナーズ
扉を開けたとたん、耳に届いたのは
どこまでも透き通るような“音”だった。
それは部屋中に伸びてゆくような広がりを持っていて、
震える低音を創りだしたかと思うと、弾けるような高音を生んだ。
その全てが、スタジオの中央に立つ男から紡がれていると気付くのに、
そう時間はかからなかった。
そう高くはない身長に、
華奢な体つき。
肩に付くくらいまであるパーマがかった黒髪は結ばれていて、
毛先に近づくにつれて金髪になっていた。
マイクもなければ、
伴奏も無かった。
声だけで、あれだけの音楽を奏でていた。
歌っていたのは、やっぱりお父さんの曲だった。
新たに恋の詞が付けられていて、
それがいっそう曲の世界を印象づけた。
―――これが、馨…
曲が終わるまでの、約4分の間
私は隣にいる江上さんのことも忘れて
ただ 馨の歌だけを聴いていた。