エンターテイナーズ



「ワン、トゥー…」


馨の掛け声に合わせて、伶緒がピアノを奏ではじめる。


私はただ、メロディーと歌詞を追うことに必死だった。


隣で歌う馨は目を閉じて、
耳を澄ましながら歌っているようだった。

意外と、トーンが合わせやすい。


伶緒の伴奏も心地よい。

控えめで、でも安定した音。

馨の声に合った音だったけど、私にとっても歌いやすかった。




そうして、私に周りを見渡す余裕ができていることに気付いた時には、
もう曲の終わる頃だった。





「―――…す……っごい!!

すっごく良かった!!」


最後の音が消えると、
江上さんが目をうるうるさせながら手を叩いた。


「馨の声と珠季さんの声って似てるわけじゃないのに、
何と言うのか…
混じりあう感じなのね!」


興奮気味に叫ぶ江上さんの言葉に納得したのはこちらの方だった。


確かにいつもより、
音が溶け合っていく気がした。


それに、なにより…

気持ちがいい。


こんなに声を出しても辛くない。

今までは、相手に合わせながら歌うのが苦手だったせいか、
歌うと喉が狭まって辛かった。


でも、今はそれがない。
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