エンターテイナーズ
10階はまるで別空間だった。
黒と白が支配する世界。
―――無人のような静寂。
江上さんの低いヒールの音が辺りに響いた。
両側にある大きな2つの扉を通りすぎ、
廊下の突き当たりまでやってきた。
『社長室』
と書かれた金色のプレート。
このドアの向こうで、
岬さんが私を待っている。
――コンコンッ
「社長、珠季さんを連れて来ました」
「…―入って」
ブルッ、と小さく震えた体はきっと
未来への夢を感じているから。
「いらっしゃい、珠季ちゃん。
気持ちは、固まったかい?」
だから、進んでみよう。
「ここに……
入所、したいです。
――挑戦したいです!!」
口にしたらそれは、
明確な意志をもって生まれた気がした。
私は、歌手になりたい。
まずは、
新しい世界に一歩踏み出す勇気。