多目的ルームに住む僕ら
これは、まだ未開封のボトルキャップを外せという合図だ。
確かに、ユリの腕は手首から二の腕にかけて男の力で簡単に折れそうなくらい細い。
指に関しては壊れかけの固い網戸を開けようとする時に可哀想だと思うくらいだ。
だからとは言え病的に骨だけではなく、程よく柔らかそうな肌をしているから厄介だ。
何度その手に触れたいと思ったか…。
…ペットボトルの話に戻ろう。
つまり、ペットボトルのキャップを開けれないなんて訳はないのだ。
そんなのデタラメだと分かっていても、俺はユリの手からペットボトルを取りすんなりと開けてやってしまう。
「ん。」
「ありがと。」
ユリは綺麗な横顔で、ミネラルウォーターを飲み始めた。
コクッコクッ―
ユリの喉が鳴る。
正直言って、この横顔が好きだ。
単純に、綺麗だと思って見とれてしまう。
「タロー。ご飯。」
喉が潤ったのか、ユリはにっこりと微笑む。
はいはい。本当にムカツク女だよお前は。
ユリはペットボトルの蓋を閉めながらまたペタペタとキッチンからテレビの前へ戻った。
この時は、単純に腹が立つ。
俺は、タローでもなければユリの家政婦でもない。
イライラしながらも、料理が嫌いではない俺は、素早く夕飯を作りテーブルに並べた。
「あ、やった。このだし巻き好きー。」
当たり前に存在していた赤い箸で、二人分存在する白い皿で……
俺の作る激甘なだし巻き玉子を旨そうに頬張るユリを見ると、悪い気はしない。
むしろ、なぜか懐かしさと一緒に心が安らぐ。
またそんな事を考えてる自分に気が付いていつものごとく焦る。