多目的ルームに住む僕ら
「ね。」
女は自慢げに首を傾けた。
確かに俺の部屋は103号室だ。
でも…
「ちょっと待てよ?入居予定日…1年前だぜ。しかも去年の10月10日って、俺が入居した日じゃん。」
「ああ、でもここ2年ごとの契約でしょ?問題ないよ。」
女はあっけらかんとしていた。
俺と女、二重契約か?!とんでもない不動産だな。
そう思ったが、それより先に俺は女に聞いた。
「あんたはさ、何で入居が1年も遅れた訳?」
少しイラついてきた俺は、胸ポケットから煙草の箱を取出しながら片手にすでにライターを構えていた。
「さぁ。何でだっけ?忘れちゃった。」
思わずくわえていた煙草が口から落ちた。
「はぁ?忘れちゃった?何かのイタズラ?だいたい、あんた誰?」
怪しいにも程がある。
新手の詐欺か勧誘か。女は黙っていた。
「付き合ってらんねーわ。悪いけど帰って。」
俺は結局吸えなかった煙草の箱をしまいながら、乱暴に部屋の鍵をドアの鍵穴に差した。
「待って!」
そんな大声も出せるんだな。女は左手で俺の腕を掴んで右手を差し出した。
「これ。ここの鍵でしょ?同じだよ。」
ちいさな手のひらには、でかくて特徴的な形が印象的なギザギザの鍵が乗っていた。