多目的ルームに住む僕ら



「はぁっ…。」


女は、ベッドとテーブルの間にちょこん、と座った。
俺がいつも座る位置に。

俺はそこでいつも、ベッドに寄り掛かりながらビールを片手にテレビを見る。
テーブルにつまみを広げて。

テーブルの端には真っ白な合皮の座椅子があるが、一度も座った事がない。


なぜか一度も。





女は、つっ立ったままの俺に向いて真剣な眼差しを作ってみせた。



「お前…。」

「私ユリ。…お願い。私をココに置いて。この紙以外に頼るものがないの…。」



俺の言葉を遮って、ユリと名乗る女はジャケットを脱いだ。


もう10月だ、暑い訳はない。


ジャケットの下に来ていたハイウエストのミニのワンピースも脱いだ。


下着だけになって行く女を、俺はただ見つめた。



戸惑ったりしたんじゃなく、ただユリの体に見とれたからだった。




「私の事、好きにしていいから。」



無表情で下着に手をかけたユリを見て、我に帰った俺は急いでジャケットを拾った。



「やめろ。」



そのジャケットをユリの肩にかけて、ユリの腕を掴んだ。



その瞬間、腕の細さと柔らかさに驚いた。


「そんな事望んでない。」



驚きを隠して冷静に、声を低くして言った。



「でも…本当に行く所なんてないの。少しの間だけでいいから。」




少し間を空けてもう一度、ユリが口を開いた。


「思い出すまで。」




消え入りそうな声だけど、確かに聞こえた。



――思い出すまで。




その言葉となんとも言えない悲しい表情のせいで、思わず俺はこう答えた。



「好きなだけ居ればいい。」





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