後向きの向日葵
久しぶりに会った鎌田君はどうしたのか、着慣れないスーツを身に纏っていたのだ。
きっかけはもちろん、単純な理由からだった。
彼は、自分の愛しい彼女が関わっている、画期的な、ビジネスを開始しただけなのだ。
その上、ホワイトカラーの知的な態度を装いから始めてみるのも悪くはないといった、様子だ。
この頃、組織を一つ作れそうな程に拡がっていた、車と言う趣味で集まった男性陣にとって、平均的に、ビジネスの香る装いは魅力的なものに映っていた。
そして、このメンバーの全てではなかったわけだけど、鎌田君の格好や、立ち振舞いをコピーする男性が現れ始めた。

近年、性能は大幅に上がったのだが、印刷を繰り返す度に画像が荒れてくる・・・、それがコピー機の特徴だった。
そうしたOA機器にほとんど触れたことも無い、青年たちがいきなり、スーツを買い込み始めたのは、私には、少しばかり不思議な光景でもあった。
ところで、この群の中で一番濃いはずの・・・、言わばオリジナルにあたる人物は、その後、どうしていたのであろうか。

ある日、ついに私はモリ先輩から、直接に頼まれたのだった。

「お願い!厳しいノルマを達成するためにも、会員にはなってくれないかな?」
「ううん。もちろん、商品を買わなくていいの。」
「ただ、メンバーがね、メンバーは必要なのよ。」
世の中については相当の無知であったとはいえ、当時の私でさえ、この言い回しがテレビドラマ等で、度々、友情の崩壊を予告する場面に使用されることは知っていた。
暫しの間、私は沈黙をして、次に、
「今はまだ、うまく説明できないのだけど、
ここで、頷くことには違和感があるんだ。ごめんね。」と、
先輩を傷つけないように丁重に断り、続けて、商法に詳しい友人を思い出していた。
晩に私は、電話をかけた。
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